インタビュー

障がいのある方を受け入れ働きやすい企業づくりを推し進めていく

X株式会社(従業員数約5千人) Aさん(人事部)

障がいのある方を受け入れる制度として障害者雇用枠があります。今回は、2百人を超える障がい者の方々を受け入れている、X株式会社のAさんにお話しをおうかがいし、企業の側が実際にどのような対応をしているのか、どういった苦労があったのか、今後どのようなことが求められるのか、など、人事担当の立場からさまざまなお話しをおうかがいしました。1企業でのお話ではありますが、とても貴重な経験を語っていただきました。

インタビュー日 2018年3月

社内で障がい者雇用創出プロジェクトを立ち上げる

-まず、どういった経緯でHIV陽性の方を受け入れることになったのでしょうか。

障がい者雇用の雇用率の引き上げに伴い、採用活動が必要になるというのがまず大きなところでした。ずいぶん前から国も取り組んでいるところですので、当社としてもそういった国の取り組みにしっかりついていこうと、障がい者雇用に取り組んでいます。その一つとして、ちょうどX年前に雇用率達成という大きなスローガンを掲げつつ、障がい者雇用の創出プロジェクトというものを立ち上げました、もう一つは、当社は人はすべて宝と考えていますので、当社のビジネスにご参画いただける方はぜひ当社の社員となって働いていただきたいという活動をしています。この大きな二つで活動を始めました。その中でさまざまな議論をする中で、免疫機能障がいの方(=HIV陽性の方)の受け入れというのもやっていきたいとスタートしてきたところです。

-免疫機能障がいの方を対象にしようとしたのが、非常に興味深いのですが。

通常の採用業務の中で、障がいをクローズにして入社しているものの、よくよく確認すると手帳を持たれている場合がありました。その障がいが免疫機能だった方がおられ、自然的な発生というのが一つきっかけです。こういう方がいらっしゃるんだと。お仕事をきちんとされていて勤怠も安定している方だというのも一つのきっかけでした。もう一つは、社外の様々なセミナーで、各社さんが免疫機能障がいのところに取り組まれているというお話を聞いたのもきっかけです。

受け入れを心配している社員の理解を深めることは実は楽しい作業

-受け入れられるときに特段の心配などはなかったのでしょうか。

実は、受け入れるのは私たち人事ではなくて、現場の事業所なんです。事業所では、正社員、契約社員、アルバイト社員などがたくさんいますので、当時はそのあたりの懸念事項、周りへの影響とか、そういったものをリスクとして心配する声はあったかなと思ってます。

-事業所の皆さんは、どういったことを心配されていたのでしょうか。

医学的にはもう、性交渉などがなければ感染することはないと今は言われていますが、当時は、会話をしていると感染するのではないかとか、日ごろのお仕事を同じ空間ですることで感染するのではないかとか、もしも感染したら会社はどういう責任を取るんだとか、そういう議論は当たり前にありました。いろんな事業所があって、事業所長の人たちがいて、役職者がそれぞれ事業所にいるので、受け入れに柔軟な事業所もあれば、まだまだリスクを感じる事業所もあって、本当にもう両極端だったんです。どうやって解決していけるのだろうか、どういう認識を持ってもらうためにどういうアプローチが必要かということを、個別の事業所と対話していきました。

-それはきっと相当大変だったのではないですか。

むしろ、非常に楽しかったという印象の方がとても強いです。理解を進めていってもらえるという過程が見えると楽しんです。たとえば、医学的根拠があるとはいえ、その医学的根拠を誰が話すのかというのも一つのポイントになっていました。人事が医学的根拠を話すのと、社外のプロの方がお話するのとでは大きな差があると。その時に、あるHIV陽性者支援のNPOとネットワークを作らせていただいて、スタッフの方に来ていただき、人事向けにセミナーコーナーをやりました。そういったことをやりながら、少しずつ一つ一つの事情にご理解を求めていくという作業をやり始めると、実際明らかに反応が違ってくるんです。人事担当者が話すと、「でも人事ってお医者さんじゃないから本当なの?」となるのですが…。そういったところを一つ一つ詰めていくという作業、これはやはり非常に面白く、私たちも雇用を作るという観点でいうと、非常に意味があると思っています。あわせて「実は当社では既に2名の方が働いてるんですよ」と伝えると、「え、そうなの?」というような反応になるんです。勤怠は実はこんな状況ですと伝えると、「本当に安定しているね」という反応になるんです。ですから、医学的根拠と実態をセットで話をしていくのは、理解が進み、人事としては非常に楽しいですし、社会貢献を少しでも何かしらできているかなということを感じます。

-具体的には社内の啓発はどのようにされているのでしょうか。

障がい者雇用創出プロジェクトでは、年に約7回から8回ぐらいの勉強会を、全事業所をつないで、テレビ会議で行います。また月1回で定例の会議をやっています。そこで私が話したり、説明会をやったり、外部の方に来ていただいたり、障がいに特化した説明会をやったりしています。そういったことを繰り返しながら、毎月啓蒙活動をやっていきます。一方で、免疫機能障がいの方の選考が進めば、最終採用決定をする前に、改めてその受け入れのプロジェクトの上長、いわゆるマネージャーさんや、スーパーバイザーの方、役職者の方に対して、改めて、「障がいの具体は実はこういう内容です。先ほど申しあげた実績もあります。ぜひチャレンジしてみてください」という形でお願いする形をとっています。

仕事の価値観と開示の希望を面接の時に確認する

-障がいのある方を受け入れられる際に、採用の面接等で確認されることはどういう事項でしょう。

障がいの種別とか種類内容を確認するのはもちろんですが、背景は絶対聞きません。なぜそういう障がいになったんですかという質問は絶対しません。基本的には面接では「障がいに関するご説明をお願いします」という一言だけで、あとはご本人が自分で選択してお話ししていただくというスタンスをとっています。もちろん人権を守るというところはあります。しかしもう一つとして、障がいについてご自身がどのように理解されているのかというのをきちんと把握することが、いわゆる仕事の価値観にもつながってくると思ってのことなんです。免疫機能障がいはまだ諸々のリスクもある障がいだと思っていますので、ご本人が周りに対して「僕HIV陽性なんですよ」というのを、ぽろっと言ってしまうようなライトな性格の持ち主なのか、しっかり自分の障がいを受け入れたうえで、社会の認知も受け入れたうえで、「会社に寄与していきたい」というしっかりした考えを持った方なのか、そのあたりを面接の中で少し確認しながら進めています。それと、体調が何かしら悪くなるときのサインというものがあると思うので、そういったところは注意してきちんと確認しています。

-ご本人には障がいについての社内での開示についてはいつ確認されているんでしょうか。

やはり面接の段階です。どういう開示範囲の価値観を持っているかを必ず確認をします。「全従業員にいいです」という方もいらっしゃいます。「自分の上長だけにして欲しい」という方もいらっしゃいます。そういう場合は、「自分の上長」の定義も確認しないといけません。自分の直属の上長なのか、それともこのラインの上長なのかで違うので、「こういうパターンやこういうパターンありますが、どっちを指していますか」と確認しながら開示範囲をきちんと確認します。

働きやすい職場づくりのために心がけている「声かけ」と「社内での報告」

-ご本人が働きやすい職場づくりということで、どんなことに気を遣われていたり配慮されていますか。

比較的頑張り屋の方が多いかなと思っていて、息抜きとか声かけとか、そういったものは意識をしてやってます。一緒にランチに行ったりとか。
各事業所に相談員がいますが、本社の場合私が相談員ですので、10分ぐらい時間があると、ふらふら歩きながら「どう?」と声かけるんです。それで何かサインが出てくれば、個別に面談することにしています。

-一般的に企業さんが免疫機能障がいの方を雇われたときに、何に気を付けたらいいんだろうということを、少し過剰に配慮してしまいがちではないかとも思うんですが、そのあたりはどうだったんでしょうか。

恐らく過剰にならざるを得ないかなとは思うんですけれども、事前に受け入れや理解が進んでいて、かつ採用の決裁者の理解があれば、全て事はうまく動くと思っています。配属される組織の中に、きちんと必要な情報を落としておくというのがとても大事なことです。情報提供という点では、人事担当者はつい障がいを考慮しすぎて開示しないという選択をする会社も結構あると思うんです。確かにそういう側面もありますが、必要な管理監督責任者にはきちんと障がいを説明し理解してもらって受け入れをすることが一番大事だと思っています。必要な方に必要な情報を提供することです。

-直属の上司や事業所からはどういう問い合わせが多かったのでしょう。

あくまで事業体によると思うんですが、当社の場合は、ちゃんと勤怠が安定しているのか、プロジェクトで行う事務業務とかサポート業務というのができる経験があるのか、もう本当にそのあたりなんです。そこがしっかりできていれば、最終的には障がい云々じゃないんです。
あとは、免疫機能障がいを持っている方は早く亡くなってしまうような病気だという昔の印象をそのまま持ってらっしゃる方もいるので、「いや、昔とは違うんですよ、今は健常者とほとんど変わらず長生きできるんです」という説明を、医学的にきちんと説明することでケアをしていきます。

-企業規模が大きいという点で、意識して心がけられていることは何かおありですか。

経営層などへの報告の一部に「こういった人材がうちの会社では働いているんです」というのを混ぜて、定期的にアウトプットしています。そのことで、「へえ、そういった方も働いているんだね」とか、「うちのビジネスに寄与してくれているんだね」という受け止めにつながっていくと思っていますので、そういう経営層へのアウトプットというのは意識しています。また、雇用率達成という面では、各拠点にも雇用率を設けてますので、できれば長期的に働いてもらえることが、その雇用率を達成維持するためにもプロジェクトの安定にもつながりますし、全てポジティブになります。人事としては、そういう方をきちんとサポートするために何を準備してあげれば拠点が安心するのかを、きちんと準備する組み立てをやっています。

障がいの種別でプロットし自社のどこで活躍してもらえるかを整理して考える

-今後に向けて、障がいのある方を受け入れる際に、より必要と考えているようなものがありますか。

まだまだHIV陽性者の方の企業の受け入れは進んでないなと思っている中で、国も雇用率の改革に、精神障がいの方を1ポイントにしますよという取り組みをしているので、これからもっと雇用が増えていくと思っています。当社で長く働いてもらうためには、障がい者雇用の方に向けた給与の制度などの仕組みをこれから整えていきたいと思っています。意欲に対して正しいお給料がお支払できる仕組みが絶対必要だと思ってますので、ここを整えるのが大きな来期の仕事です。また、もしも障がい者雇用の方たち向けの給与制度が作れなくても、契約社員から正社員への登用などを積極的にやる、そういったこともとても大切だと思います。啓蒙活動や地ならしはここ1、2年で進んできたので、そういう仕組みというところに今度は着手したいと思っていますね。

-障がいのある方を受け入れることの企業にとってのメリットとして、どのようなことがあると言えるでしょうか。

雇用率という観点で言うと、国に後押しされながら雇用を進めていくということになると思うので、それは当たり前の現象だと思っています。企業はその雇用率をどういうふうに捉えて、会社の経営と、どういう人を雇用すればうちのビジネスにつながるのを考えていくのが、事業会社の役割だと思います。
障がいのある方たちは、それぞれ障がいの種別が異なっているわけですから、身体、知的、精神でこういう仕事ができますとか、こういう勤怠の状況が想定できますとか、そういうことが全部プロットできるんです。これをプロットした上で、自社の事業と照らし合わせてみた時に、この人はもしかしたら活躍してもらえるかもしれないというように整理ができていくと、雇用は実はすごく広がっていきます。そういう整理を経営層の人たちとぜひやっていただければと考えます。

-受け入れ経験の企業を超えての共有も重要そうですね。

はい。障がいのある方たちが、健全に元気よく働ける企業を作るためには、自分たちで何かを議論しすぎるのではなくて、外の企業との交流を深めながら、いい部分を早く取り入れて、自分たちの中で回すという、「外との交流」が、まだまだ少ないと思っています。セミナーなどで話させていただく機会があるんですけど、名刺交換や意見交換までなかなか至らないということが結構多い状況です。通常の企業のサービスの説明会とか勉強会だとどんどん名刺交換が始まるんですが。会社合同説明会とか、勉強会やセミナーとか、あるいは就労移行支援所という、特に精神障がいの方を中心に就労や生活の支援をしている場所も全国に今たくさんありますので、そういったところが主催するセミナーもたくさんあります。企業同士が一緒になるタイミングがたくさんあるんです。その時にもっと交流が活発になるといいかなあと思いますね。いろいろな企業の人事担当者同士が意見を交換しながら、いいとこどりをして、お互いに経営価値を高めていくことが、結果として障がい者の方々の働く雇用の整備につながると思います。抱えてる課題は意外と同じだったりするんです。みんな一緒です。

就職を考えている方は自分自身の経験スキルの棚卸をして面接に臨んでほしい

-就職を考えていらっしゃるHIV陽性者の方、あるいは障がいのある方に、メッセージをいただけますか。

おそらく当事者の方は、自分の障がいがどう受け止められるのかがすごく怖かったり心配・不安だったりして面接に来られると思うんです。けれども会社はそうではなくて、その人の経験やスキルの部分を見て、うちの会社の仕事に何が活かせるのかというマッチングという観点でお仕事を提供していきます。不安なこともあるかもしれないですけれども、自分自身の経験やスキルをちゃんと棚卸しをして面接に行ってください。これが求職者へのメッセージです。これからは、もっと医学も進歩してHIV陽性者の方に関する考え方も変わってきて、もっともっと雇用が広がる時代になってくると思うので、そういった中で決して不利ではないと思っています。しっかり自信を持って面接に行っていただきたいです。
もう一つ、これは企業の方へのメッセージです。職域を狭めないでいただきたいと思います。求職者の方がいろんな経験をされているのであれば、募集しているポジションでなくても、このポジションならもしかしたらいけるかもというものが絶対あると思うので、ぜひ仕事の棚卸しというのを社内でやっていただきたいと思います。

-当事者の側からすると、障がいだとか病いだとかで、抱えるものが重いと、勇気を持って外に出られない状況にあり、それが長い間積み重なって、年齢も上がって、それこそ経験やスキルといったものがあまり身についていないという方というのも結構多いと思うんです。そういう方に対してなにかアドバイスや、こういうことをヒントに棚卸しをしていったらどうかとかというアドバイスはありますか。

経験やスキルについては、大きく二つの方向性があると思っています。できることを目指すのか、新しいことを目指すのか、です。
新しいことを目指すのであれば、新しい技能とか知識とかが必要となります。今、日本は恵まれていると思います。利用できるリソースがたくさんあるんです。周りの支援センターやハローワークなどがありますので、そこをうまく頼るというのが一つの手だと思います。第三者を頼る、これはもう絶対必要だと思います。地方自治体に支援センターが様々ありますので、そこに相談に行けば障がいのある方でもベテランの支援員さんなどをつけてくれたりします。生活的な支援も受けられれば、能力的な支援、例えば研修などもハローワーク主催のものを紹介してもらえたりします。ある程度年齢がいくと視野も狭くなってしまいがちですが、そういう支援を使うのが非常に大事だと思います。
一方で、今自分にできることをやるのであれば、しっかりたくさん面接を受けて企業を選んでいければいいと思います。

-今日はたくさんのお話しをしていただきました。X株式会社での取り組みを聞いて、多くの方がいろいろ持ち帰って考えようと思われると思います。本当にありがとうございます。

こちらこそ、ありがとうございました。